がんの医療費も50万円まで

 がん保険が売れるのは、「がんの医療費は飛び抜けて高い」と本気で思っているひとが大勢いるからかもしれません。
ほとんどの病気やケガの医療費は、初診から家庭復帰・社会復帰を果たすまでに、およそ50万円で済みます。高額療養費制度があるおかげで、医療費で自己破産するようなことは、ほとんど考えられません。そしてもちろん、がんも例外ではないのです。
 そもそも、「がんは入院が長い」といまだに本気で思っているひとが多いことに驚かされます。そういうひとたちは、厚生労働省が毎年公開している、各病院の疾病別平均入院日数のデータを見ると、力が抜けてしまうかもしれません。
 たとえば肺がん(手術あり)の平均入院日数(2016年度)は、次の表のようになっています(「厚生労働省DPCデータ」2018年)。
 肺がん手術を受けても、たいていは10日から2週間で退院です。抗がん剤治療や放射線治療だけの入院となると、もっと短くなることは言うまでもありません。
大腸がん(結腸がん)は多少長引きますが、それでも20日を超えることはありません。
 ここでとくに注意しなければならないのが、これらの数字は、全年齢の患者の平均入院日数だという点です。
 ご存じのように、がん患者の多くは高齢者です。高血圧、糖尿病、心臓病など、ほかの病気をいくつも抱えている患者が少なくありません。しかし、今ではそうした患者にも積極的に手術を行うようになってきました。逆に言えば、まだ50代、60代ぐらいで、ほかの病気が少なく比較的体力のある患者であれば、もっと短期間で退院できるわけです。
 手術も腹ふく腔くう鏡きょう・胸きょう腔くう鏡きょう手術が増えてきています。肺がん手術などは、すでに6割近くが胸腔鏡手術に置き換わっています。また消化器の早期のがんなら、内視鏡できれいに切り取ることができます。日帰りか、入院してもせいぜい2〜3日です。
 ですから、がん保険の入院給付金や手術給付金を楽しみ(?)にしているようなひとは、当てが外れてしまうかもしれません。というよりも、「入院や手術の費用が心配だからがん保険に入る」という発想自体、そもそも間違いだということです。
 一方で、診断時に100万円が給付されるような契約では、火災保険で言うところの「焼け太り」も発生するかもしれません。すると、何のためのがん保険だろう? と思えてこないでしょうか。
先進医療特約に意味はあるか
 がん保険に加入する人のなかには、「先進医療特約」を評価する人もいます。通算2000万円くらいまでの費用負担を補ほ?てんし、特約保険料は月々100円程度です。
 しかし先進医療とは、「一種の人体実験」だということをご存じでしょうか。
 はっきり言えば、本当に効果があるかどうか、患者を使って試してみようというのが先進医療です。やってみて、本当に効くようなら健康保険に移しますし、効かないようなら退場となるのです。
 2019年2月1日現在、93種類の治療法・検査法が先進医療の指定を受けています。ただし、そのなかでがんの治療に役立つ(かもしれない)のは、重じゅう粒りゅう子し線せんと陽よう子し線せんの2種類に限られると言っても過言ではありません(合わせて「粒子線治療」と呼びます)。過去20年以上にわたって、延のべ数万人の患者が受けており、今でも毎年4000人前後が受けています。しかし、ほとんどのがんで、いまだに健康保険の対象になっていません。
 実は、粒子線治療のほうが普通の放射線治療よりも優れているとする研究成果は、世界的に見てもあまり出ていないのです。また、がんの種類によっては、従来の放射線治療のほうが優れているという論文も見受けられます。
 それ以外では、白内障の「多た焦しょう点てん眼内レンズ」が人気を集めています。健康保険適用の眼内レンズは「単焦点レンズ」に限られますが、多焦点レンズなら近くにも遠くにもピントが合うので、快適さが違います。2016年度の1年間に、約1万4000人以上が手術を受けました。ただし、これはがん保険の対象ではありません。医療保険の先進医療特約なら、給付金を受けられます。
 次いで、「前眼部三次元画像解析」(約1万2000人)。特殊なカメラを用いて、眼球内の細かい構造まで三次元的に解析できるというものです。これはあくまで検査方法であって、治療法ではありません。やはり医療保険の特約に限られます。
 粒子線治療に加え、これら2つの先進医療を受けた患者の合計は、2017年度において約3万人。全先進医療患者の実に91%を占めています。ですから、「先進医療」といったらこの4種類、と割り切ってしまっても構わないくらいです。「がんの先進医療」に限れば、粒子線治療のみと思ってください。

 

 

収入の大半が保険会社の儲けに?

 肝心の料金ですが、陽子線は平均で約276万5000円、重粒子線が約314万9000円、多焦点眼内レンズが約58万1000円(両眼)、前眼部三次元画像解析はぐっと安くて、約3500円です。
 2017年度において粒子線治療を受けた患者は、全国で約4000人でした。これを人口当たりに置き換えると、国民3万1750人に1人となります。希望者はもっと多かったかもしれませんが、がんの大きさや位置、患者のコンディションなど、さまざまな条件があるため、全員が受けられるわけではありません。
 一方、先進医療特約の保険料は、月々100円として、年間では1200円です。ある保険会社のがん保険に入る際、先進医療特約を老若男女合わせて3万1750人が付加したとすると、年間3810万円の収入になります。
 この人数のなかから1人が粒子線治療を受けるわけですから、支出は270万〜320万円です。
 残りは保険会社の取り分です。集めた保険料のおよそ9割から諸経費を引いた残りが保険会社の儲もうけになるのです。納得がいくでしょうか。
「そうは言っても、先進医療を何度も受ける患者もいるから、やっぱり特約は必要なのではないか?」
 と考えるひともいるでしょう。
 最大2000万円まで保障してくれるのですから、粒子線治療なら少なくとも6回は受けられる計算になります。
 でも残念ながら、粒子線治療は周辺の正常な組織や細胞も傷めてしまうため、同じ部位に2回行うことはできません。たとえば前立腺がんに対して治療を行ったものの、再発してしまった場合、もう一度前立腺に照射することはありません。
 偶然、他の臓器に新たながんが見つかった場合は、新規に照射することはありえます。しかし私の(N)が調べた限りでは、同じ患者に2回以上、粒子線治療を行ったという論文や学会発表は見つかりませんでした。
 なお、多焦点眼内レンズなら、金額的には34回は受けられます。しかし眼内レンズを何度も入れ替えたという話も、やはり聞いたことがありません。これも一生に一度限りの手術と思ってください。